大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和37年(ツ)34号 判決

上告人 控訴人・原告 宮廻サイ

訴訟代理人 原定夫

被上告人 被控訴人・被告 浜辺文太郎

訴訟代理人 吉田亥市

主文

原判決を破棄する。

本件を松江地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人原定夫の上告理由について。

記録によれば、上告人は本件第一審において第一審判決添附図面(一)の1ないし23及び1の各点に該当する地点を結ぶ線で囲まれた地域が上告人の所有であることの確認を求めたのに対し、第一審判決はその主文において右図面の10ないし21、イ、ロ、ハ及び10の各点に該当する地点を結ぶ線で囲まれた地域が上告人の所有であることを確認して請求の一部を認容したが、その余の部分については理由の記載によりこれを排斥する趣旨であることがうかがわれるにとどまり主文中に何らの判断を示していないこと、上告人はこれに対し控訴を提起し、「第一審判決中上告人敗訴の部分を取り消し、前記図面の1ないし10、ハ、ロ、イ、21ないし23及び1の各点に該当する地点を結ぶ線で囲まれた地域が上告人の所有であることを確認する」との判決を求める旨申し立てたこと、しかるに、原審は判決は主文に包含するものに限り既判力を有するものであるから、第一審判決主文に何ら宣言するところなき請求については、その理由中で判断を示していたとしてもいまだ判決がないものであり、右請求は依然第一審に係属しているものと解すべく、従つて追加判決によつて補充されないうちに、もとの判決に対しただちになされた控訴は不適法であつて移審の効力を生じない、よつて、第一審判決主文に包含されなかつた前記請求棄却部分についてなされた本件控訴は不適法であるとしてこれを却下したこと、が明らかである。

しかしながら、判決主文に「原告その余の請求を棄却する」との一項を遺脱していても理由中にその旨の判断がなされている場合においては、裁判の脱漏があつたものというべきではなく、右は判決における明白な誤謬にすぎす更正決定により右遺脱を補充しうるものと解するのが相当である。されば、本件についても、第一審は上告人(原告)の請求を認容しなかつた部分につき主文において何ら判断を示すところがないけれども、その理由によれば、「被告(被上告人)主張線は原告(上告人)山と被告山との境界線、原告主張線は被告山と元山との境界線であることが認定される。右認定に従えば原告山の地域は主文記載のとおりとなり、被告山の地域は図面(一)の1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.ハ、ロ、イ、21.22.23.1.の各点を結ぶ線で囲む範囲と認定され、図面(一)の5.6.7.8.9.10.の各点を結ぶ線は、田中山と被告山との境界線と認むべきである。」と判示しているので、上告人の本件山林の所有権確認請求は一部その主文記載のとおり認容し、その余はこれを棄却すべきものと判断したことが認められるので、この棄却部分を主文に遺脱したことは裁判の脱漏に該当せず、右請求棄却部分は控訴により原審に係属するにいたつたものというべきである。しからば、本件第一審判決に裁判の脱漏があり前記請求棄却部分は依然第一審に係属し、これに対する控訴は不適法であると判断した原判決には民事訴訟法の解釈を誤つた違法があり、右違法は判決の結果に影響があること明かであるから、破棄を免れないものである。論旨は理由がある。

よつて、民訴四〇七条により主文のとおり判決する。

なお、本件と同様の事例において、原審と見解を一にする大審院の判例があり(大審院大正二年七月一〇日、同六年一一月二六日、同一〇年七月一四日の各判決)、当裁判所の前記判断はこれに反するものであるけれども、民訴規則五八条二号にいわゆる「…法令の解釈について、意見が…前に…大審院…のした判決に反するとき」とは、同一の法令の解釈につき上告裁判所である高等裁判所の見解が大審院の判決に反する場合を指すものというべきところ、右大審院の各判決はいわゆる旧民事訴訟法に関してなされたものであつて、現行民事訴訟法はその後全面的な改正を受け大正一五年法律第六一号なる別個の法律として成立したものであるから、本件は前記民訴規則五八条二号に該当しないものというべきである。よつて、当裁判所は、民訴四〇六条の二による最高裁判所への移送は必要がないものと認めて、ただちに判決した次第である。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 西俣信比古 裁判官 宮本聖司)

上告理由

原判決(第二審判決)は「本件記録によれば控訴人は原審において原判決添付図面(一)の1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.1.の各点を結ぶ線で囲まれた地域が控訴人の所有であることの確認を求めていたのに対し、原審は、原判決主文において右図面の10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.イ、ロ、ハ、10.の各点を結ぶ線で囲まれた地域が控訴人の所有であることを確認して請求の一部を認容したが、その余の部分(即ち本件控訴請求部分である右図面(一)の1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.ハ、ロ、イ、21.22.23.1.の各点を結ぶ線で囲まれた地域の部分)については主文中何等の判断も示していないことが明らかである」と判示し結局「本件控訴は原判決主文に包含されていない右遺脱部分についての控訴であること記録上明白であるから不適法として却下を免れない」と判示して上告人の控訴を却下したが第一審判決はその理由において「被告(被上告人)山の地域は図面(一)の1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.ハ、ロ、イ、21.22.23.1.の各点を結ぶ線で囲む範囲と認定され」と判示し本件控訴部分については上告人の請求を棄却したことが明白である。ただ第一審判決はこの部分につき「その余の請求は棄却する」と主文に掲げるのを書き落したに過ぎないのであつて裁判を脱漏した場合に該当しない。然らば原裁判所(第二審)はむしろ職権をもつて之が更正決定をなすべき職責があるものと謂うべく(大正一二、四、七大審院判例集二巻五号二一八頁参照)従つて之を怠つて本件控訴を却下した原判決は結局判決に影響を及ぼすことが明かなる法令の違背があり破棄を免かれない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例